自衛隊統合運用の問題点 その1

「自衛隊統合運用の問題点 その1」

 「軍事研究」9月号に掲載されている江口博保元陸将の「自衛隊における統合運用部隊編成のあり方を問う」と題する論文を参考に自衛隊の統合運用の問題点を考えてみる。
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 2006年3月に統合幕僚監部が創設され、その際、運用は全て統幕に一元化するとの主旨の下、陸・海・空幕僚監部の運用部門が縮小されたが、江口陸将はこのことを問題視している。
 防衛省設置法では、「行動の事務に関する基本は内部部局の所掌であり、統合幕僚監部の所掌事務には『行動計画の立案』(第二十二条の二)があるが、各幕僚監部にはそれもない」とし、「行動の基本は依然として内部部局に有り、しかも三幕僚監部は行動計画から除外されている。また統合幕僚監部には『行動計画に関して必要な教育訓練、編成、装備、配置、経理、調達、補給及び保健衛生並びに職員の人事及び補充の計画の立案』(第二十二条の三)の任務があり、三幕僚監部は『それら統合幕僚監部の計画の執行に伴う必要な措置に関する計画を立案』(第二十三条の二)するという責務になっている。これは、行動計画を実行に移すためのあらゆる具体的な計画を統合幕僚監部が負うことであり、三幕僚監部はその補助の任に過ぎない」と江口陸将は指摘し、三幕僚監部が真にフォース・プロバイダーとしての役割を果たすためには、「三幕僚監部ごとに作戦構想を研究・開発し、それに適する編成・装備を整え、教育訓練を施して練成に努める責務を与えるべきである」と述べている。
 その上で、運用の一元化の名のもとに三幕僚監部から運用部門を削減した結果、統幕に必要以上に負荷をかけ、三幕僚監部の参謀本部的機能を弱体化させたことを改め、統幕の下に三自衛隊の幕僚監部が作戦・情報を含む幕僚機能を全て保有する必要があると提言している。
 また、「昔の統合幕僚会議には第4室(兵站・後方)があったが、現在の組織には兵站・後方を主務とする部署がないように見受ける(注:主席後方補給官と云う部に準じる部署はある)。具体的な事項は三幕僚監部に任せるとしても、国家レベルにおいて、兵站を無視して作戦が成り立つはずがないことは衆知の事実である。中でも輸送は主として被輸送部隊である陸上自衛隊と主として輸送を担任する海・空自衛隊の統合運用が必要であり、兵站を所掌する組織の中に統合運用を所管する部署が必要である」と述べている。

 東日本大震災の際には、災害派遣部隊として自衛隊史上初めて且つ最大規模の統合任務部隊が編成されたが、これについて江口陸将は、各部隊の涙ぐましい努力は多としながらも、「付け焼刃的に統合任務部隊を編成したために理想的な統合運用には至らなかったものと推察する」と述べている。
 このように推察した理由として、①各方面隊から増援された師団や旅団等から成る陸災部隊を統一指揮する指揮官は、災統合任務部隊指揮官が兼務せざるを得なかったこと ②海災部隊と空災部隊指揮官にそれぞれ横須賀地方総監と航空総隊司令官が選定されたが、それは適切ではなかった ③災統合任務部隊と後方支援態勢の関係が明瞭に区分されていなかったのではないか、の以上三点を挙げている。
 ①について江口陸将は、「現有ではそのような指揮官(陸災部隊を統一指揮する指揮官)を求めるすべはなく止むを得ざる処置であったことは理解している」としつつも、君塚栄治災統合任務部隊指揮官が「陸上部隊の運用に相当の比重を置かざるを得なかったものと推察」され、海・空災部隊への目配りが疎かになったことを暗に批判している。この点については、有事の際にも問題になる可能性が高いので、今後充分に検討する必要があるだろう。
 ②については、海災部隊指揮官になった横須賀地方総監は、被災地正面が警備区域に含まれると云う点においては適任だが、隷下の地方隊の勢力は微弱で、部隊を指揮する権限も小さいことに、江口陸将は懸念を示している。だが、他に適任者はなく横須賀地方総監で良かったと思う。
 しかし、空災部隊指揮官に航空総隊司令官が就いたことについては、「航空総隊司令官は日本の防空に関する総指揮官 (略) ロシアや中国の航空機への対応が本来の任務」との江口陸将の指摘はもっともだ。空災部隊指揮官には、隷下に輸送航空隊や航空救難団などを率いる航空支援集団司令官が適任だったと思う。
 ③については、陸・海・空災部隊はそれぞれ多数の部隊や機関からその一部が災統合任務部隊に名を連ねているが、これらの部隊や機関は全て災統合任務部隊の陸・海・空災部隊指揮官の直接統制下あったのかどうか疑問を感じるとし、後方支援に任じる部隊等も形式的に指揮下に入ったのではないか、と江口陸将は推測している。

 方面総監部を廃止し、陸上総隊を創設することに江口陸将は否定的な意見を述べている。
 「諸外国を見ても、陸軍総司令官が存在する国もあるが、どちらかといえば少数派であり、その場合は参謀総長は司令官の下に位置する」と述べている。また、「陸上総隊は陸上自衛隊の戦闘部隊の全てを指揮下に置くことになることから、陸上幕僚監部と総隊司令部は同じ視点で陸上防衛戦略や部隊運用を考えることになり、屋上屋を架すことになる」と指摘している。
 続けて、「海・空自衛隊の総隊はいわば戦闘部隊を主体に編成されているが、陸上自衛隊の方面隊は戦闘部隊だけではなく、地区補給処、教育部隊のほかに地方協力本部の管理にも関わっているから、防衛区域における部隊の運用から区域内の物品調達や隊員の補充・教育までの機能を有し、各地方自治体とも連携している。陸上自衛隊の方面総監の任務と役割は、防衛海域はあっても実力部隊は別の司令官の隷下にある海上自衛隊の地方総監や、空域の防空に限定した航空方面隊司令官の任務・役割とは画然とした差がある。
 そのような性格を持つ五個の方面隊を潰して一人の司令官が全てを握れるはずもなく、そうなれば後に残るのは学校と研究本部、補給統制本部等だけを陸上幕僚長が掌握することになる。陸上総隊の必要性は、陸上幕僚監部に参謀本部としての機能を復活させれば、これまで同様に運用上何の問題もなくなるのである」と力説している。

 以下、明日に続く。

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