自衛隊、「第一線救護衛生員」育成へ

「自衛隊、『第一線救護衛生員』育成へ」

 防衛省は、「防衛計画の大綱」及び「中期防衛力整備計画」において、「事態対処時における救命救急措置に係わる検討を行い、第一線の救護能力の向上を図る」とされたことを受け、米軍等における取り組みを踏まえつつ、部外有識者による検討会を全6回実施し、「防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会 報告書」を取りまとめ、21日公表した。
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 同報告書の要旨は、「医師による治療を受けることが困難な第一線において負傷した隊員の救命率を向上させるためには、准看護師及び救急救命士である隊員(注1)が、後送前の救命処置を実施できる体制を整備することが必要」とし、「一般的な救命救急処置に加え、次の緊急救命行為を実施可能とすることが必要」としている。①気道閉塞に対する輪状甲状靱帯切開・穿刺、②緊張性気胸に対する胸腔穿刺、③出血性ショックに対する輸液路(静脈路・骨髄路)の確保と輸液、④痛みを緩和するための鎮痛剤投与(医療用麻薬を含む)、⑤感染症予防のための抗生剤投与。

 *注1:自衛隊では、2年間の教育により准看護師の免許を取得した後、1年間の養成課程を経て救急救命士の免許を取得させている。

 防衛省では、検討会報告書の内容を踏まえ、「第一線救護衛生員」(仮称)が、緊急救命行為を適確に行なうための実施要領、教育カリキュラムを策定し、第一線救護衛生員の訓練に必要な機材・資材(救命行為を行なうためのシミュレーターなど)を整備するという。
 また省内に、事態対処時を前提とした状況でのメディカルコントロール体制を構築するため、医師である隊員等で構成されるコンバット・メディカルコントロール協議会(CMC協議会)を設置し、緊急救命行為の実施要領及び教育カリキュラムの承認、資格認定、事後検証等を行い、医療行為の質を保証するとのことだ。
 第一線救護衛生員を早期に部隊に配置するため、平成29年度前半より、第一線での緊急救命行為の教育に着手し、約190時間の養成期間を経て資格取得を進める方針という。

 各国に比べて格段に制限されている、医官を除く自衛隊員による戦場における救急救命行為が認められ、「第一線救護衛生員」の養成が開始されることは一歩前進だが、一般隊員の救急救命行為の教育こそ推進すべきだという意見がある。
 「軍事研究」10月号掲載の記事「『駆けつけ警護』で部隊は崩壊する」の中で、筆者の照井資規氏は、受傷直後の負傷兵自ら又は相互に行なう素早い救急処置こそ生存率向上には肝要としている。このため、全隊員に必要な救急処置・応急処置教育を行なうとともに、個人携行救急品の充実を力説している。
 [各国が全将兵への救急処置教育を徹底しているのは、それが第一線救護における適確な救命において最も効果があるためである。ヨルダン軍を始め中東諸国では、米軍では選抜された兵士のみに行なっている胸腔穿刺までを、個人の救急処置の範疇に含めている。米軍よりヨルダン軍やイスラエル軍の方が兵士個人の救急処置能力は高い・・・・戦闘外傷は対応時間が非常に短いため、負傷した将兵自らまたは相互に行なう救急処置により生命の急を救うことが重視されている・・・]

 また、わずか450名しかいない自衛官の救急救命士の業務(緊急救命行為)範囲を拡大しても、効果的な救命につながるか疑問だとしている。照井氏は、「胸部に受けた穿通性外傷による緊張性気胸」(上記②に該当)を例にとり次のように述べている。
 [緊張性気胸とは、胸部に受けた損傷等により胸腔内に空気が溜まり、その空気圧により心臓を収める縦隔が健康な肺の方に押され、その結果、心臓の上下に繋がる大静脈が閉塞して心臓に血液が戻ってこなくなる、血液循環上の致命的な状態である。
 針で胸に孔を開ければ心臓が元の位置に戻る程度まで空気が抜ける。肺の機能は回復しないが肺は二つあるので、致命的な状態ならは脱することができる。この穿通性外傷による緊張性気胸の胸腔減圧について、各国は優れたチェストシール(下写真)を装備し、緊張性気胸の兆候が見られる場合は、まずシートを捲ることで脱気させるBurp法を全将兵に教育している。身体に針で胸に孔を穿つことは、身体に傷をつけることなので違法となるが、銃弾や破片で既に胸に孔が空いているのであるから、そこを閉塞しているシールを捲ることは誰でもできることである。]
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 一方、第一線救護衛生員が緊急救命行為を行なう際の法的課題について照井氏は、「自衛官の救急救命士に身体に侵襲を加える行為である、脱気針による緊張性気胸の胸腔減圧や気管切開を特別に許可する法改正が焦点となっている」と書いている。
 しかし、22日付産経新聞のこの件を伝える記事(「自衛隊員、有事の医療行為」)によると、「保健師助産師看護師法は臨時応急の医療行為を認めている」としている。防衛省は、法改正の必要はないと判断しているようだ。
 確かに同法第三十七条では、例外として「臨時応急の手当て」を認めているが、この規定を第一線救護衛生隊員が行なう緊急救命行為全般に適用するのは無理があるのではないだろうか。
 また、刑法第三十五条に規定する「正当業務行為」として、第一線救護衛生員が行なう緊急救命行為の全てを違法性が阻却されると解釈するのも強引な印象を受ける。「保健師助産師看護師法」及び「救急救命士法」に第一線救護衛生員が行なう緊急救命行為についての例外規定を設けるのが筋だと思うのだが。

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この記事へのコメント

まったく正論緊急
2016年11月26日 18:14
法的裏付けも必要だと思います。

また、中途採用のスペシャリスト、医者ばかりでなく、
色んな医療技術者も、その枠も作ってくべきかと。

国策として、そういうヒトを即応予備まで持って行き、
ふだんは国立系の医療機関などで優先採用する、
ほんとはそのくらいやってもいいと思うんですが・・・

天下りとか、変な半公半民みたいな天下り団体より、
ずっと筋が通ってると思うんですが。

徴兵制が無いからこそ、そのくらいやってもいいと思います。
他のスペシャル職種でも、同様です。

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